B:大井戸の巨竜 ウェルウォーム
釣りに魅入られちまったヤツは、時折、妙なことをやらかすもんだ。その昔、ある男が涼を楽しむための「マリカの大井戸」で、釣りをしようと試みたそうだ。
男は、砂の川で採った、小ぶりながら活きのいいウォームを餌に使おうとしたんだが……釣り針に刺そうとしたところ、跳ね回って落ちてしまったそうな。
巨大な竜が大井戸から現れたのは、それからしばらく後のこと……井戸の中の魚を食い荒らし、巨体を手に入れ地表に現れたのさ。これが「ウェルウォーム」と呼ばれる怪物の由来だ。
https://gyazo.com/d58bc9b415fdf4e932a61f5a0f5d84d8
ショートショートエオルゼア冒険譚
アムアレーンの南西部に「マリカの大井戸」と呼ばれる場所がある。ここはナバスアレン王朝時代、さる王妃が亡き王を偲んで、冷たい地下水を汲み上げることで、涼を愉しむために掘らせた大井戸だそうだ。
元々ナバスアレンは荒地と砂漠の国で鉱物資源により発展した国だったそうだから井戸を掘ること自体はそう難しいことではなかったのだろう。だがこの巨大な井戸が果たして地下水で満たされたことがあるのか、いつから地下水が枯れているのかは知らないが思うように地下水は出なかったようだ。後で分かった話だが、その最深部は大きな横穴の洞窟に繋がっていて、その洞窟はかなりエーテルが乱れ、偏っているという話だ。
底の方に水が溜まっているとおもったのか、だとしても何故井戸に魚がいると思ったのかは謎だが、その枯れた大井戸で釣りをしようと試みたど阿呆がいたらしい。その結果、釣り餌として砂漠で捕まえてきた幼体のウォームをうっかり大井戸に落としてしまったらしい。いやいや、砂漠のウォームと言えば幼体と言ったって結構な大きさである。一体何が釣れると思ったのか、やっぱり謎である。
そりゃあ、確かに、あたしだって相方が止せと言うのに誰も寄り付かないようなボロボロの古本屋や出店の方がうっかり掘り出し物の魔導書があるかもしれないなどと考えるので、いろんな場所で釣るうちに誰も釣ろうなどと考えつかない場所の方が誰も想像しないような大物が釣れるかもしれないと考える心理は理解できなくもない。だが、魔導書はリスキーモブを生み出したりはしないから、やっぱりその釣り人はど阿呆なのだ。
結局マリカの大井戸に落ちたウォームはありがちな話だが、乱れたエーテルの影響を多分に受け、また大井戸のそこに在る洞窟に住まうエーテルの影響を受けた生物を喰らう事で通常のウォームより遥かに大きく、遥かに凶暴な化け物に育ったという話だ。大体アラグかエーテルのせいというのがよくある話だ。その根拠はと問えば、釣り人がウォームを落としてから数年後に出現するようになったからだと言う。それを否定するような根拠や証拠を持たないし、別にそれでも困る理由がある訳ではないから、うんうんと話を聞く事にしている。
何はともあれ、あたし達は拠点としていたモルドスークから山脈で国土を分断されたアム・アレーンの西部地区の目撃地点へと鉱山跡の洞窟を抜けてやってきた。西部地区はナバスアレンの一大産業である鉱物資源の採石産業の中心地だったアンバーヒルと呼ばれる岩山のある地域なのだが、あちらこちらの大地にクレバスが出来ていて重量物を運搬するのが困難な為、採掘した資源を運ぶ専用トロッコのレールがクレバスを跨ぐ形で高架の上に組まれている。
「ふう」
ウォームを探してもう半日歩き通しだ。流石に歩き疲れて、あたしは空を見上げて溜息をついた。雲一つない乾燥した空だ。気候で言えば、エオルゼアで言うザナラーン地方に近い。大地の裂け目に架けられた吊り橋を渡り始めていた相方が振り返って気遣ってくれる。
「向こう岸に付いたら少し休憩しよっか」
「そうしよ」
休憩が見えてくると俄然足が軽くなる。あたしはそう返事をして相方に続いて吊り橋を渡り始めた。
相方が吊り橋を渡り切ろうとした時、地鳴りのような音がして吊り橋が激しく揺れた。
「なに?なに~~?」
「ぎゃああああっ」
二人とも振り落とされそうになりながら脇のロープにしがみ付いて叫んだ。
吊り橋を渡り切った先の砂地の地面が、下から水でも湧き出るかのように大きく盛り上がったかと思うと、巨大な何かが奇妙な声と砂埃を上げながら地中から湧きだしてきた。
探していたウェルウォームだ。思っていたより遥かに大きく、体の太さは直径5mほど、もたげた頭の天辺までなら10m近い。それがなんとも形容しがたい効果音のような声を上げながらこちらに向かって勢いよく進み始め、そのまま吊り橋を渡ってこようとする。あの巨体からすれば吊り橋のロープはタコ糸のようなものだし、渡された床板はベニヤ板みたいなものだ。
「ちょちょちょっ、無理無理~!」
「馬鹿なの?ねぇ、馬鹿でしょ?考えろ馬鹿~~~!!」
あたしと相方は叫びながら元来た陸地に向かって走り出した。
クレバスの底は光が届かず、見えない程深い。
ロープはビンッと音を立てて張り詰めて埃を舞わせ、吊り橋の支柱は悲鳴を上げるかのように大きく軋み嫌な音を立てた。